笹だんごは旧暦の端午の節句(5月5日)に無病息災を祈って食されてきたと云われていますがこの点について考えてみましょう。
端午は月の端(はじめ)の午(うま)の日のことでしたが、次第に5月5日だけをさすようになり、中国では重五の日といって一年で最も邪悪な日と考えられました。また5月は悪月といい厄病が発生し始める季節にもあたり、古くから攘災の歳時が行われてきたようです。
一方、日本では5月は田植えを前に慎む物忌の月でもあります。それゆえに香気の強いショウブ(菖蒲)やヨモギを軒端にさして災厄や邪気を祓い、同じ意味から笹巻きのお菓子が作られるようになりました。笹ちまきや笹だんごそして笹もちなどです。これらを包んだ茅や笹の葉はその旺盛な繁殖力から神霊が宿る植物、邪悪を祓う草と信じられ、それで巻いたものは災厄厄病を祓う食べ物とされてきました。
また、笹の葉は防腐作用による殺菌効果があり、薬草にもなるヨモギは繊維質やビタミンなど各種栄養素を豊富に含み、バランスの取れた健康食品として作られてきたのです。そのような食品を端午の節句に食することで、邪気を祓いつつ健康を養う。まさに庶民がその生活の中で育んできたものといえるでしょう。そしてハレの日は田植えの後に最高潮を迎えます。
農家にとって田植えは一大イベントです。現代では農作業の近代化が進み、5月の大型連休中に大半の工程を終われるようになってきましたが、かつては6月中旬まで手を煩わす大変な作業でありました。その田植えが落ち着いたとき、家にあるくず米を使って団子やおかきなど様々なお菓子を作ってきた人々。4月から5月に取りおいたヨモギと前年取って乾燥させておいた笹の葉を使って作る笹だんご。10個ずつ結わいて物干し竿に干して置く。子どもが大人の目を盗んで一つまた一つと食べる。その風景は何とも素朴でふるさとを感じさせるものではないでしょうか。