地域的にいえば、笹だんごは蒲原から古志、三島、刈羽、魚沼の各郡と福島県会津地方の一部で見られるものであり、北限の岩船と南限の頚城そして佐渡地方では笹だんごを作る風習がないようです。しかし今日様々な機会でこれらの地方でも笹だんごを見ることができます。しかも「新潟名物」そして「家庭の味」「手作り」というイメージがついてまわります。笹だんごは、今日に至り地域を越え、時代を越え新潟を代表する産品として育まれてきたといっても過言ではないでしょう。
笹だんごのイメージについて、著名な民俗学者矢野敬一氏は次のように論じています。
「笹だんごは、大きくいえば第一に『ふるさとの味』としてのイメージであり、第二に家庭性に根ざした食としてのイメージです。これらは複数の具体的イメージから構成されており、一番大きなものは 『米どころ新潟』にふさわしい、米を素材とした産品としてのイメージ。次いで端午の節句という古くから伝わる行事と結びつく、伝統的な行事食としてのイメージが第二点。 『米どころ』を代表する産品として、一般的な名産品との差異性を浮き立たせると同時に、年中行事への言及は、笹だんごが地域に深く根差したものであることを指示し、歴史性ばかりでなく地域への密着度もあわせてメッセージとされるのです。この二つが輻湊しつつ、ごく一部の地域だけではなく広く新潟全体に及ぶ 『ふるさとの味』としてのイメージが笹だんごには付託されていきます。加えてこれと対応して「手作り」という家庭のぬくもり、温かさと結びつき情緒的な側面に訴えかける家庭性に根ざしたイメージも合わせて提示されます。この両者によって、笹だんごは単なる地域の名産品にとどまらない意味を担っていくのです。」
以上がその論旨であり、すばらしいご指摘と思います。
現代においては、過剰なまでの大量生産大量消費の時代への反省から、環境保護に対する意識が高まっています。また、現代を代表する食「ファストフード」に対する反省と批判から、食文化を見直し地域に根ざした古き良きものを守っていこうとする「スローフード運動」も広がりを見せてきています。そして地域で出来たものを地域で消費しようという「地産地消」。その土地と風土が育んだ食こそその土地の者の体にあっているのだとする「身土不二」の思想。これら近年叫ばれるようになった多くのキーワードがすべて笹だんごに結びつきます。新潟に生まれおそらくここで死んでいくものとして、そんな笹だんごを今後益々大切に育んでまいります。
店主敬白